「旅路の果てに」

「旅路の果てに」

するりするりと
音も立てず
何かが身体から落ちていく
終わることなく
一枚一枚ふんわり剥がされていく感覚

まるで天女の羽衣のよう

身軽さに自由さを感じつつ
不安が頭を掠めていく

このまま、空を飛んでいけるだろうか
夕暮れに、温かいねぐらに戻れるだろうか

北風と太陽のおはなしのように
僕は、狙われた旅人なのか

お願いだから
僕の身体で遊ばないで
僕の宝を捨てさせないで

一つ一つ階段を登っては
身につけた大切な分身たち
逞しい身体や、漲る気力、そして精一杯の知力は生きるため
喜び、悲しみ、怒りの感情は、しなやかな魂の肥やしに

お願いだから
それを奪わないで

お前の長い旅はもうすぐ終わる
やがて、生まれた頃の無垢な姿に戻るのだ
北風でも太陽でもなく
お前に寄り添ってきた分身たちと別れる時

旅はいつか終わる
お前に残されるのは、辿った道の豊かな時間
それをまとって飛び立つ先は
未知なる世界

悲しむことはない
終わりの先にはやがて
はじまりの空が広がるだろう

軽やかに飛び立ち、北風と太陽を翻弄してやるがいい

そんな慈しみの言葉が
既に羽ばたきも忘れ、動くこともない幸せな骸に
優しく降り注がれていく

(浜松市民文芸第69集応募 市民文芸賞受賞作)


*この詩は、2023年の春書いたもの
その前の年に、エンディングノート作りにはまった私は、否が応でも自分の死に向かい合うようになった。
楽観的な私ですら、その作業は気分を重くさせた。
死は誰にも訪れるもの、だから怖がらずその現実を受け入れよう…とこの詩がおもい浮かんだ。

颯爽と潔く生き抜かなきゃという、自分への応援となったかしら?
まだまだ一杯生きなきゃ、です。


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